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まるで全身をトゲだらけの鎧で飾った「パンクロッカー恐竜」。
見た目のインパクトだけでなく、その骨格構造も非常にユニークで、アンキロサウルス類の起源や進化を見直すきっかけとなるほど、研究価値の高い恐竜です。
トゲだらけの体
スピコメルスの最大の特徴は、体の両脇や首から突き出した異様に長いトゲです。
最大のものは87センチに達し、生前にはその外側が角質で覆われていたと考えられるため、実際には1メートル近くあった可能性があります。
通常、アンキロサウルス類のトゲや装甲は皮膚の中に「独立した骨」として存在していて、他の骨とは繋がっていません。(我々のヒザの皿のイメージ)。

Greg Goebel from Loveland CO, USA, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
しかしスピコメルスの場合、それらが骨格と直接つながっていたのです。
恐竜全体で見ても、これはスピコメルスにしか見られない特徴です。

Clumsystiggy, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
また、これらのトゲは単なる防御用にしてはあまりにも長すぎます。
そこで注目されているのが「ハンディキャップ理論」です。あえて動きにくくなるほど目立つ装飾を持つことで、「これでも生き延びられるほど自分は強い」と仲間やライバルに誇示していた可能性があるのです。
つまり、このトゲは防具であると同時に、繁殖や種内でのアピールにも使われていたと考えられています。
進化の見直し
スピコメルスは現在知られている中で最古の鎧竜です。その発見は、恐竜の進化についての理解を大きく揺さぶりました。
アンキロサウルス類(鎧竜)とステゴサウルス類(剣竜)は、まとめて「装盾(そうじゅん)類」と呼びます。
装盾類はスケリドサウルスのような比較的シンプルな恐竜から、ジュラ紀の終盤になって鎧竜と剣竜に枝分かれしたと考えられていました。

ところがスピコメルスがジュラ紀の中期の地層から見つかったことで、その分岐は従来考えていたよりも3000万年ほど早い時期に起こっていた可能性が高まりました。
さらに、初期の鎧竜は地味な姿をしていたという定説も、この恐竜のド派手な外見によって覆されてしまったのです。
アフリカにおける鎧竜の重要性
スピコメルスの発見は、地理的にも非常に重要な意味を持っています。
これまで鎧竜の化石は北米、アジア、ヨーロッパで数多く見つかっていましたが、南半球ではほとんど確認されておらず、アフリカからは一切発見されていませんでした。
スピコメルスは、現時点でアフリカ大陸で唯一知られている鎧竜であり、その存在は「恐竜進化の物語における空白地帯」を埋める重要な証拠となっています。
この発見は、「恐竜の進化や分布は特定の大陸に偏っていた」という従来の見方を揺るがし、アフリカもまた恐竜進化の重要な舞台だったことを示すものです。
今後のアフリカにおける化石発見への期待も高まりますね!
研究史
スピコメルスが初めて発見されたのは2021年のこと。
最初に見つかったのは、トゲの生えた不思議な形のあばら骨でした。その異様な構造から新属新種と判断され、ラテン語の「spica(トゲ)」と「mellus(襟)」を組み合わせて「スピコメルス」と命名されました。
その後、2025年にはさらに多くの骨が発見され、全身像が徐々に明らかになっていきました。
分類
恐竜
- 竜盤目
- 獣脚類
- 竜脚形類
- 鳥盤目
- 周飾頭類
- 角竜類
- 堅頭竜類
- 装盾類
- 剣竜類
- 曲竜類
- ノドサウルス科
- アンキロサウルス科
-
スピコメルス
- 鳥脚類
- 周飾頭類
こんなに長いトゲがあったら、仲間と一緒にいても強制ソーシャルディスタンスですね