
映画『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』で、不気味な爪と羽毛に包まれた姿で登場し、観客に強烈なインパクトを与えた恐竜、それがテリジノサウルスです。
見た目は肉食恐竜のようですが、実際には長い首や小さな頭、葉をかき集めるのに適した歯など、植物食に適応した特徴を持っています。
また、化石からは羽毛があった可能性も示唆されています。

植物食!?
テリジノサウルスは、ティラノサウルスやスピノサウルスと同じく、もともと肉食のグループ「獣脚類」に属しながら、植物を食べていた珍しい恐竜です。
現代で例えるなら、クマの仲間なのに笹の葉を食べるパンダのような存在です。
同じ地域にいた肉食恐竜と食べ物が競合しないように、異なる食性を持つことで『ニッチ(生態的役割)』を分け合っていたと考えられています。
これは、限られた環境で多様な恐竜が共存するための進化的な工夫のひとつです。
爪の使い道
テリジノサウルスの爪は、長さが1メートルにも達し、まるで武器のように見えます。
しかし、腕の筋肉の付き方や関節の動き方から判断すると、攻撃に使うには適していない構造です。

Woudloper, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
この爪は、木の枝や葉を自分の方へ引き寄せるために使われていたと考えられています。
つまり、鋭さよりも“長さ”を活かして植物を集める「道具」のような役割を果たしていたのです。
ただし、こうした使い方がされていたのは、爪が長くなり始めた初期のテリジノサウルス類(テリジノサウルスの祖先にあたる恐竜たち)の段階です。
進化の過程でさらに爪が長くなり、最終形態であるテリジノサウルスの頃には、求愛や威嚇などの「ディスプレイ(見せるための機能)」として使われていた可能性が高いとされています。
大きなおなかと歩き方
植物は肉よりも消化に時間がかかるため、長い腸と発酵を助ける胃腸構造が必要です。
その結果、テリジノサウルスはお腹が膨らんだ体形になりました。
こうした内臓を収めるために骨盤は横に広がり、後ろ足は外側に開いたようながに股気味の歩行姿勢をとっていたと考えられています。
多くの肉食恐竜は背骨が地面と水平になるような前傾姿勢を取りますが、テリジノサウルスは重いお腹とのバランスを取るため、より直立に近い姿勢で上体を保っていたと推定されています。

日本にもいた!
テリジノサウルスの仲間である「パラリテリジノサウルス(Paralitherizinosaurus)」は、2022年に日本の北海道で発見され、新種として記載されたテリジノサウルス類の恐竜です。
名前の「パラリテリジノサウルス」は、「海のそばのテリジノサウルス類」という意味で、海岸近くの環境に生息していた可能性を示しています。
発見されたのは前脚の骨や爪などで、鋭く湾曲した特徴的な爪は、まさにテリジノサウルス類の仲間であることを物語っています。

Masato Hattori (masahatto2.p2.bindsite.jp), CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
この発見により、テリジノサウルス類がアジア大陸の内陸部だけでなく、海岸に近い地域や現在の日本列島にも生息していたことが明らかになり、彼らの生態や分布を考える上で非常に重要な手がかりとなりました。
研究史
「テリジノサウルス」という名前は、「カマのようなトカゲ(Therizo=刈る、saurus=トカゲ)」という意味です。
初めて化石が発見されたのは1948年で、当初は爪の部分しか見つかっておらず、その形状から「巨大な肉食恐竜」だと誤解されていました。
その後の発掘で、草食性に近い体の構造が明らかになり、分類は大きく修正されました。
かつては“謎の恐竜”とされていた存在ですが、近年の研究により「テリジノサウルス類」と呼ばれる独自のグループが確立され、その中でも最大級の種として位置付けられています。
分類
恐竜
- 竜盤目
- 獣脚類
- ケラトサウルス類
- テタヌラ類
- ティラノサウルス科
- スピノサウルス科
- アロサウルス科
- テリジノサウルス科
-
テリジノサウルス
-
- 竜脚形類
- 獣脚類
- 鳥盤目
- 周飾頭類
- 角竜類
- 堅頭竜類
- 装盾類
- 剣竜類
- 曲竜類
- 鳥脚類
- 周飾頭類