
「恐竜の王」として誰もが名前を知っているティラノサウルス・レックス。
その名前はラテン語で「暴君の王トカゲ」を意味し、映画やゲームなど多くの作品で圧倒的な存在感を放っています。
大きな頭、鋭い歯、そして強靭なアゴ──
数ある恐竜の中でも、これほど多く語られ、描かれ、愛されてきた恐竜は他にいないでしょう。

顎(あご)の力
ティラノサウルスの最大の武器は、強力なアゴと鋭い歯です。
咬合力(噛む力)は、研究によって約3〜6トンと推定されています。
参考までに、アフリカ象の体重は約5トン。
もし象が片足であなたの上に全体重をかけたら……しかもその足の裏にバナナサイズの鋭利な歯が並んでいたら──
ティラノサウルスに噛まれるというのは、そんなイメージです。
骨ごとバキバキですね🦴
実際に、ティラノサウルスの胃の中から他の恐竜の骨が見つかったり、噛まれた痕跡が残る植物食恐竜の化石も発見されています。
ちなみに現代の生物で最も噛む力が強いのはイリエワニで約1.7トン、ライオンは約0.65トンです。

嗅覚と視覚
頭骨の化石の中の空間を調べると、おおよその脳の形がわかります。
それによると、彼らの脳の「匂いを感知する部分(臭球)」が非常に発達していたようです。
つまり、ティラノサウルスは犬のように鼻が利く恐竜だったのです。
また、アゴの進化により顔の幅が広くなり、目が前方を向くように進化しました。
これにより、現代の肉食動物と同様に立体視が可能となり、距離感を正確に把握して獲物を追跡できたと考えられています。

腕の謎
体の大きさが13mもあるのに対して、腕の長さは人間と同じ程度の1m程しかありません。
彼らは顎を鍛えたために、どうしても頭が重くなってしまいます。上半身と下半身のバランスをとるためには、手を退化させるしかなかったのでしょう。
小さいとはいえ、その腕にはかなり強力な筋肉が付いていたことが分かっています。
腕の利用法としては、立ち上がる際の補助や、交尾時のパートナーの固定、獲物を押さえるためなど、さまざまな説が考えられています。
ちなみにティラノサウルスの手は2本指です。
ティラノサウルスの真似をするときに、人差し指と中指を出して「チョキ」の形にする人がいますが、実際には親指と人差し指が発達しており、中指以降は退化しています。

寿命と成長
恐竜の骨の断面には「成長リング(木の年輪のような模様)」があります。それを見ることで、その個体がどのように成長し、何歳まで生きたのかを知ることができます。
「スー」という愛称が付けられた最大級のティラノサウルスの化石を調べると、28歳で命を落としたことが分かっています。
スーの骨はケガや病気の痕跡が多く、老齢期だったようで、そこからティラノサウルスの寿命は30歳くらいだろうと考えられています。
また、成長リングの間隔から、14〜18歳で急激に成長し、20歳頃に成体サイズに達したことが判明しています。

羽毛の可能性
近年の研究で、ティラノサウルスの祖先には羽毛があったことが分かっています。
中国で発見された近縁種(ディロングやユウティラヌス)には羽毛の痕跡がありました。
そのため、ティラノサウルスも幼体の頃には羽毛があり、成長とともに失われた可能性があります。
ただし、成体の皮膚の化石からはウロコ状の構造が見つかっており、
大人のティラノサウルスは羽毛を持たなかったという説が現在では有力です。
研究史
ティラノサウルスの化石が初めて発見されたのは1900年ごろ、アメリカ・モンタナ州。
発掘を行ったのは、有名な化石ハンターバーナム・ブラウンです。
1902年にはより完全な骨格が発見され、
1905年、アメリカ自然史博物館の館長で古生物学者でもあったヘンリー・フェアフィールド・オズボーンが、
この新種に「Tyrannosaurus rex(暴君トカゲの王)」という学名を与えました。
- 「tyrannos」=暴君(ギリシャ語)
- 「sauros」=トカゲ(ギリシャ語)
- 「rex」=王(ラテン語)
つまり、「暴君の王トカゲ」という意味になります。
この命名以降、ティラノサウルスは恐竜研究の象徴として広く知られる存在となり、
20世紀以降の恐竜ブームをけん引する立役者となったのです。

分類
恐竜
- 竜盤目
- 獣脚類
- テタヌラ類
- スピノサウルス科
- ドロマエオサウルス科
- アロサウルス科
- ティラノサウルス科
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ティラノサウルス
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